音楽はやや大味ながら

シモノフ氏とモスクワ・フィルの音楽は、基本的にやや速めのテンポでアッケラカンと進んでいく。オーケストラの響きは分厚く、張りがある。各楽器のソロが力強く、安定しているので、厚いながらも、輪郭のはっきりした音楽が奏でられる。
シモノフ氏の指揮には(指揮姿はさておき)やや大味な部分もあるようだ。表情付けの単位が非常に大きいように聴こえたのだ。音楽の部分ごと(ひとまとまりの旋律ごと)に効果的にテンポを変えて、音量バランスも整えてはいるが、その「部分のさらに細部」での表情の変化は殆ど要求しない。例えば、8分音符がタタタタと4つ並んでいたら、それらの音を同じ大きさと長さではっきりと刻ませる(意図的にかどうかはわからない)。それが、演奏の「アッケラカン」な印象を誘っているようだ。チャイコフスキーの書いた旋律に、ちっともウェットな感情が乗っかってこないのは却って新鮮ですらある。(最近、細部に表情をのせる天才フェドセーエフ指揮の演奏をよく聴いているから余計に気になったのかもしれない)
基本的にモスクワ・フィルお得意の大音量で押しまくる演奏だった。チャイコフスキーのジメジメ感は皆無で、ひたすら「華麗」である。これはこれで楽しい演奏なことは確か。