後半はシューマン

シューマンの演奏で用いられた楽器は1846年製の歴史的なピアノ。現代のピアノと較べると、幾分くぐもったような響きがする。特に高音部では、コンサートホールで聴きなれたスタインウェイのようなキーンと張りのある音色はなく、角の丸い、ややくすんだ音が出てくるのが面白かった。
楽器自体の表現力がクラヴィチェンバロと較べて格段に幅広くなったので、デームス氏の演奏はよりロマンチックさが色濃くなった。しかし、あくまでそれが徹底して内向きなものであることはシューマンでも変わりないな、というのが私の印象。デームス氏の心の内側へ上手く入り込むことができれば、音楽がすーっと沁みてくる。後半は冒頭からうまく「入り込めた」ようでどれも共感できたが、特に「アラベスク」と「ユモレスク」が気持ちよかった。
アンコールは、デームス氏自ら英語とドイツ語を交えて曲紹介しながら、なんと4曲。まずは幻想小曲集から「飛翔」と「夕べに」。ひそやかなシューマンの旋律、150年前のピアノの靄のかかった響き、デームス氏のしみじみとした演奏が三位一体となって小さなホールを満たす。続いて、「夕べの歌」と、お馴染み「トロイメライ」。最後の曲での、昔の想い出をそっと黙って抱きしめるような穏やかな表情には、息を詰めて聴き入るしかない。