井上氏独自の語法

前回の演奏会でも感じ、今日の演奏でも感じたのだが、井上氏は、音楽の冒頭から末尾までを完全な一本の線として聴かせるのが抜群にうまいようだ。しかもその線は極太でありながら、グネグネとかなり大胆な曲線を描いている。
極太一本曲線とラヴェルは一見混じり合わないようにも思えるが、実際に聴いてみると「なるほど、こうなるか」と充分に聴き手を納得させる演奏になっていた。緩急の大胆な対比と熱くねばる響きとで瞬く間に聴衆の耳を鷲掴みにし、そのままクライマックスまで力強く一気に引っ張っていくような印象。なかなか他にはないラヴェルだ。最近私はCBS時代のブーレーズが録音したラヴェルが好きでしょっちゅう聴いているので、まさにその正反対とも言える今日の演奏を聴いた新鮮な驚きはひとしおだったかもしれない。