向かうところ敵なし?

演奏は、膨らむ期待をさらに上回る、驚異的なまでの大熱演だった。“熱演”なんてありふれた単語を使うのさえ躊躇われるくらいだ。
第一楽章冒頭から、音楽は情熱的に、しかし一歩一歩しっかりと足を踏みしめながら疾走する。しかもただ走るのではなく、随所に大植氏特有の粘っこい歌心も盛り込まれ、その対比がなにやら巨大な物体がググッとしなるような感覚さえかんじさせる。
大植氏は激しい身振りでオーケストラを煽りながらも、無闇に音楽を振り回すのではなく、常に見通しの良い響きを確保しつつ、奏者のエネルギーをひとつの方向にまとめていっていた。指揮者も演奏者もすごい集中力だ。さらにびっくりしたのは第2楽章で、弱音に乗る表情のなんとも繊細なこと。同じ音が単純に連続する独特の主題が、切々と聴き手に語りかけてくる。…これは唯事ではない。