なるほど、第3がメインのわけは…

未完成とモーツァルトの後は、20分の休憩を挟んで、シューベルトの第3交響曲。20分強で終わってしまう曲である。「なんでこの曲がメインなの?」と、チケットを買うときに首をひねったのは私だけではないはずだ。
ところが、演奏が始まってしばらくたって、「なるほど…」と腑に落ちた。ムーティ氏とウィーン・フィルというコンビの個性が実に上手く生きる曲だということがわかったからだ。
第3交響曲は、曲の構造もあっけないくらいシンプルで、出てくる旋律も「プリティ」と表現したくなるほど可愛らしい曲。ムーティ氏とウィーン・フィルが奏でるこの曲には、瑞々しい生命感が漲っていた。そして、それぞれの主題はどこまでも屈託のない、清純な喜びに満ちていて、耳が洗われるよう。なんて爽やかで幸福に満ちた楽曲なんだろう。
第2楽章と第3楽章の中間部では、ムーティ氏は指揮棒を振るのをやめ、手を身体の前で組んで「すべてウィーン・フィルにお任せ」のパフォーマンス。その間、嬉々として奏でられる木管楽器の響きのなんと美しいこと、ニュアンスに満ちたこと!

ムーティ氏VPOお得意のモーツァルト

モーツァルトは、イタリアオペラ出身のムーティ氏らしい、滑舌の良いアクセントが冴えた爽やかな躍動感と、ウィーン・フィルの弱音内での表情の豊かさ、滑らかな歌い回しがしっかりと手をつないだ、惚れ惚れするような演奏。ハキハキとしているのに、トゲトゲしくならず、上手く面取りがされたような音というか、まろみを帯びた響きになっているのがウィーン・フィルのすごさか。それをごく当たり前にやっていて、すごいことをやってるようにみえないところが、またさらにすごい。

未完成交響曲

未完成交響曲は、徹頭徹尾「ウィーン・フィルの未完成交響曲」といった風情。美しく穏やかな音色で実によく歌う。びっくりするような解釈が出てくるわけではないが、ただただ「さすがなだぁ」としか言い様がない。

ムーティ氏とVPOは仲良しこよし?

男前イタリア人のムーティ氏は、悪い意味ではなく、ウィーン・フィルのご機嫌を上手くとりながら指揮をしているような雰囲気だ。要所要所でアクセントとテンポ設定を示す他は、大まかなニュアンスを要求するだけで、基本的なアティキュレーションはオーケストラ側に任せているように見える。といってももちろんムーティ氏の個性が音楽に乗っていないわけではなく、アクセントのはっきりした、快活な音楽運びは隅々まで徹底している。なるほど、このコンビは指揮者とオーケストラのいい部分が上手く噛み合っているんだな。毎年ザツルブルグで好評を博しているのも、さもありなん。

ウィーン・フィル再び

私が直接ウィーン・フィルを聴くのは、昨年の来日公演に続き2回目。前回は、ゲルギエフのネバっこいドラマ運びとウィーン・フィルの美音の組み合わせが面白かった。今回の指揮はムーティ氏。オペラファン中心に熱狂的なファンも多い指揮者だけれど、私は彼の指揮に触れるのははじめて。
プログラムは、シューベルトの第3をメインに据えるという、ちょっと意外なもの。全体的に、やや軽めのチョイスだという気はする。…それにしても、よりによってどうして第3なんだろう?

フェスティバルホール 19:00〜

リッカルド・ムーティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団